respiracion(レスピラシオン)



金沢城公園近くの築140年の町家に、30代のシェフ3人は金澤スパニッシュ「respiracion」を構えることにした。
以前から店舗併用住宅として使用されていた建物は、店舗部分を除き金澤町家認定に沿った修復工事が建物所有者によって施され、土壁や漆喰壁の真壁で構成された町家を復元したものとなった。そのため、店舗部分も町家らしさを残すようにという条件が与えられた。
「respiracion」とはスペイン語で「呼吸」を意味し、つくり手が客に対し呼吸のような存在になりたいという思いが込められている。空間もその意図に沿い、客と会話をしながら料理を提供できるように厨房の床レベルを下げ、厨房と客席を隔てるカウンターの上部には遮るものはなく一体的な空間を作り出し、厨房内の行為すべてをライブで楽しみながら食事を味わえるようにした。また全体的に客や料理が映えるように極力素材を削ぎ落とし、色のトーンを落として華美にならないようにしている。
客席の壁は町家らしさを継承するため真壁を残し、そのフレーム内にある壁は床と同じモルタル塗とした。客席と厨房の間に据え置かれた5.7×0.8mの大きなカウンターは床と連続するようにモルタルとしながらも、塗厚を調整することで提供する食事が冷めることはない。既存の天井を取り払ったことにより現れた梁と床板は経年により黒ずんでいたが、梁底のみサンダー掛けをし歴史への介入を最小限に留めることで、過去の時代の層を残しながら、空間の明るさに寄与する。
このプロジェクトはクライアント(シェフ)の想いにより、シェフ・設計者・施工者ともに同世代でチームを組み、140年前から各時代に手をかけ残ってきた建物に自分たちの時代の層を最小限に付け加え、料理と客が主役になる空間へと生まれ変わった。


村梶直人/ハルナツアーキ

所在地 石川県金沢市
主要用途 店舗(内装のみ)
共同設計 松本洋人+松山康洋 建築設計事務所
施工 沢工務店
竣工年 2017
写真 中村絵(記載ない場合)