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小立野の高窓



金沢市内にある金沢城は、浅野川と犀川に挟まれ長く伸びた小立野台地の先端に置かれ、石垣の石を運んだいし曳(びき)のみちに沿って数多くの寺院が立ち並ぶ。その小立野台地の中でも最大規模の寺の広い境内に面し、間口が細長い土地が今回の計画地であった。クライアントは30代の夫婦で小さい子どもが2人。細長い敷地に2台駐車し、リビングには薪ストーブを置きたいという要望があった。
寺との境界に配置されたブロック塀の上には、カイヅカイブキが敷地境界ギリギリに4mもの高さでそびえたっており、近くにいくつか学校があるため前面道路は狭い割に人通りも多く車もよく通る。敷地西側はいつか建物が建つかもしれず、東側は住宅が建ち並んでいる。この地区が伝統的街並み区域に指定されていることもあり、街並みに連続するように金沢の町家を参照し、外壁も町家で良く使われる杉板を選択した。
表側のミセノマにあたる部分には外部とつながる広く開放できる玄関を設けた。自転車も置ける広さの玄関は、夏は開放して駐車場と一体で使うことができ、冬は雨雪の多い金沢では外部スペースのように作業したりするのにも使え何かと便利だ。1階には水回りを集中させ、トオリニワのように長くのびた廊下の先に配した寝室には窓一面の緑が見える。玄関前の階段から連続するキッチン上部の火袋(吹抜)に面した高窓からは光が落ち、夏は高窓をあければ家全体を風が通り抜ける。
2階リビング北側に大きく開けられた窓の外に、そびえたつカイヅカイブキの上からの寺務所の屋根が見える。幅3300mmしかない室内は、構造壁を活かしながら片側に収納や薪ストーブを寄せ、勾配のある高い天井高を確保し南北両側に開口部をあけることで、狭さを全く感じさせることなく、十分に暖かい日差しも入る明るく開放的で居心地のよいリビングとなった。特に金沢の町家の天窓を参照して配した高窓は間口いっぱいにとることで細長い建物の採光・通風に加えて、常にリビングから空を見上げられることが、この空間の解放感にも重要な役割を果たしている。階段吹き抜けを介して配された子ども部屋は散らかりがちなおもちゃをうまく隠しつつ、リビングとの一体感も感じられる。
完成してしばらくたつが薪ストーブはまだ一度も付けていない。玄関前の植栽スペースも何手を付けていない。子どもが小さすぎてできないようだ。これから、まだまだこの家で過ごす時間はたっぷりあるので、したいことが詰まったこの家でずっと楽しめそうだ、とクライアント。
寺の境内から見ると、リビングの窓がちらりと見え、まるで背伸びして境内の中を覗き込もうとしているようだ。子どもたちが成長し、大人の時間が増えたころに、外壁の杉板が色づいて、かわいらしさに味わいが加わるのが楽しみである。

村梶招子・村梶直人/ハルナツアーキ

所在地 石川県金沢市
主要用途 専用住宅
規模 地上2階
建築面積 50.53㎡
延床面積 96.89㎡
構造 木造
構造 寺戸巽海構造計画工房/寺戸巽海
施工 二宮建設株式会社/石沢 智
竣工年 2016
写真 中村絵